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「書を起点とした現代アート」と聞いて、すぐに具体的な作品を思い浮かべられる人は、多くないかもしれません。
一般に「書道アート」や「現代書道アート」と呼ばれる表現には、さまざまな形式があります。
力強く書かれた漢字。
床の間に飾られた掛け軸。
大きな紙に向かって、一気に筆を走らせる書道パフォーマンス。
いずれも、書が持つ魅力を伝える大切な表現です。
一方で、Hakureiが探求しているのは、文字を美しく見せることだけではありません。
筆致、かすれ、にじみ、余白。
筆が紙と触れ合うことで生まれる摩擦。
一筆の中に宿る、書き手の呼吸や身体の動き、そして感情。
書の奥にある感覚を掬い上げ、現代的な抽象表現として、空間にひらいていく。
それが、Hakureiの考える「書を起点とした現代アート」です。

文字を読む前に、感じる
書は、本来、文字を書くための表現です。
しかし、一枚の作品を前にしたとき、私たちは必ずしも文字だけを見ているわけではありません。
細く鋭い線から、張り詰めた緊張感を感じることがあります。
大きくうねる筆致から、風や水の流れを思い浮かべることがあります。
淡くにじんだ墨に、時間の移ろいや、遠い記憶のようなものを重ねることもあります。
文字としての意味を理解する前に、線そのものから何かを受け取る。
その感覚は、音楽や現代アートに近いのかもしれません。
歌詞が分からなくても、旋律やリズムによって心が動くことがあります。
アートの文脈が分からなくても、心を揺り動かされることがあります。
書もまた、線の勢い、間、濃淡、余白によって、言葉になる前の感情へ触れることができます。

伝統から離れるのではなく、伝統の先へ
抽象的な表現を見ると、「従来の書とは異なるもの」と感じるかもしれません。
しかし、Hakureiが目指しているのは、伝統を否定することではありません。
むしろ、長い歴史の中で培われてきた書の技術や精神性に、深く向き合うことです。
墨の含ませ方。
筆を入れる角度。
線を引く速度。
力を抜く瞬間。
余白の取り方。
一見すると偶然に見えるにじみやかすれも、書家の積み重ねられた技術の上に生まれています。
型があるからこそ、型を越えたときの緊張感が生まれる。
伝統を知っているからこそ、一本の線に深さが宿る。
書を起点とした現代アートは、伝統から離れるのではなく、
伝統の奥にある本質を、いまの時代に問い直す表現です。

抽象的な作品を鑑賞する4つの視点
抽象的な作品を前にすると、「何を描いているのか分からない」と戸惑うことがあります。
けれども、すぐに正解を探す必要はありません。
作品を知識だけで理解しようとせず、まずは目の前にある線や余白を眺めてみてください。
ここでは、書から生まれた抽象表現を味わうための、4つの視点をご紹介します。
1. 線の動きを追う
筆は、どこから入り、どこへ向かっているでしょうか。
勢いよく駆け抜ける線。
途中で静かに立ち止まる線。
かすれながら、ゆっくりと消えていく線。
視線で追いかけると、作品の中に流れるリズムが見えてきます。
線は、単なる形ではありません。
書き手がその瞬間に動いた痕跡です。
2. 墨の濃淡、にじみ、かすれを見る
深い黒には、強さや重さがあります。
淡い墨には、静けさや余韻があります。
にじみやかすれは、きれいに整えられた装飾ではありません。
墨の量、紙の状態、筆の速度、書き手の身体の動き。
複数の条件が重なり合い、完全には制御できない揺らぎとして現れます。
その偶然性が、作品に生命感を与えます。
3. 余白に目を向ける
何も描かれていない場所は、単なる空白ではありません。
線と線の間にある静けさ。
視線が立ち止まる場所。
呼吸を整えるための間。
余白があるからこそ、墨の線はより強く見えます。
作品を見るときは、描かれている部分だけでなく、描かれていない部分にも目を向けてみてください。
4. 自分の中に生まれた感覚を受け止める
作品を見て、何を感じたでしょうか。
落ち着く。
少し緊張する。
懐かしい。
力強い。
なぜか、視線が離れない。
言葉にできなくても構いません。
同じ作品を見ても、ある人は山の稜線を感じ、ある人は水の流れを感じる。
別の人は、自分の人生の中で忘れられない記憶を重ねるかもしれません。
作品と自分の記憶が交わることで、鑑賞は始まります。

素材と空間によって、作品の表情は変わる
Hakureiは、書の表現を紙の上だけに閉じ込めません。
和紙、木、金属、石、アクリル、光。
素材が変われば、同じ筆致であっても、作品の印象は大きく変わります。
その変化が、私たち制作側の大きな楽しみでもあります。
和紙に墨を重ね、柔らかな光を透過させると、作品は静かに呼吸しているような佇まいになります。
金属の表面に線を刻めば、一瞬で生まれた筆の動きが、長い年月に耐える痕跡へと変わります。
壁の質感、自然光、照明、家具、建築との距離。
作品は、空間と切り離された存在ではありません。
朝と夜でも表情が変わり、見る人の気分によっても印象が変わります。
空間に置かれ、時間を重ねることで、作品は少しずつ深まっていきます。


言葉では伝えきれないものを、空間に残す
ホテルや旅館には、その土地でしか感じられない空気があります。
企業には、創業者の想いや、積み重ねてきた歴史があります。
店舗には、訪れた人にどのような時間を過ごしてほしいかという願いがあります。
けれども、大切なことほど、言葉だけでは十分に伝えきれません。
Hakureiが目指しているのは、説明するためのアートではありません。
その空間に入った瞬間、理由は分からなくても、何かを感じる。
しばらく眺めているうちに、静かな余韻が残る。
ふと見返したときに、以前とは違う表情が見えてくる。
そのような作品を、一筆ずつ丁寧につくりたいと考えています。
文字を読むだけではない。
墨と余白の間に流れる時間を味わう。
それが、白暉-Hakureiが探求する、書を起点とした現代アートです。